お金持ちの密かな楽しみだった?「水琴窟」の音響的魅力について
先日、弊社も参加していた展示会場で、不思議なテーブルを目にしました。
それは、ガラスの天板の下に敷き詰められた砂の上を自動で動く鉄球が、まるで枯山水のような模様を描き出すというもの。(「枯山水 テーブル」で検索すると多くの動画を視聴できます)
ふたつのモーターと磁力を使って、鉄球の軌跡を制御しているのだそうですが、それはそれは見事なアートで、ずーっと眺めていられる!と、思わず仕事を忘れてしまいそうになりました。
枯山水と言えば、白砂や小石を水面に見立てるように敷き、そこに石を組んで風景を表現した、日本庭園の代表的な様式のひとつですよね。
また、おなじみの「鹿威し(ししおどし)」などが設置されていたりすると、より一層風流さが増しますね。
「鹿威し(ししおどし)」は、もともと猪や鹿などの、農業に害を与える動物を追い払うために造られていた装置なのですが、その「コーン」という音は、人にとってはむしろ心地よく感じられることから音を楽しみ、愛でるものとして日本庭園の装飾として設置されることが多くなったそうです。
同じように、最初は実用的な装置・設備だったものが、後に詫び寂びの風雅な趣向に転じていった「水琴窟(すいきんくつ)」というものをご存じでしょうか。
本日はこの「水琴窟」の魅力についてご紹介したいと思います。
まずは、水琴窟がどのようなものか、絵を見ていただきましょう。
断面図だと思ってください。
甕(かめ)が逆さ向きで地中に埋められており、上部には小さな穴が開いています。
右上にあるのは手水鉢で、手を洗った水などをここに流し捨てるのですが、この染み込んだ水が水滴となって、空洞の甕の中にしたたり落ちる時、甕の中で音が反響し、まるで琴のような音色に聴こえるのです。
ご覧いただいて分かるように、元々は手水鉢廻りの排水設備(洞水門『どうすいもん』)として発明されたものでした。
当時、雪隠(=トイレ)は家屋の外にありましたから、用を足したあとは縁先の手水鉢で手を清めていたのですが、こういった縁先は往々にして茶室の側であることが多く、水をただ捨てるだけでは見栄えも良くない、といった美意識から、江戸時代初期に、茶人で作庭家でもあった小堀遠州によって発明されました。
ある時、甕の中から音が聴こえていることに気付き、その音を楽しむという粋な趣向に発展していったと言われています。
音をより美しく響かせるために、甕の大きさ、形状、厚みや穴の口径の違いなど様々な努力と工夫がなされ、いつしか水琴窟は、日本庭園における造園技術の最高峰のひとつとまで謳われるようになりました。
「目立たない所に贅を凝らす」ことを自慢しあっていた江戸の豪商たちにとって、水琴窟は格好の対象であり、庭師たちの腕の見せ所でもあったようです。
そんな水琴窟ですが、都内でも気軽に見られるところがあるというので、散歩がてら出かけてきました
これが水琴窟です。
手前に伸びている竹に耳を近づけると、地中の水音を聴くことができます。
オルゴールのような、透明感のある澄んだ音が大変美しく、凛として、かつ繊細で、癒しに満ち溢れた音が、甕の中で見事に反響していました。
環境スペースらしいうんちくを。
反響して聴こえているこの音は「ヘルムホルツ共鳴」という原理によるものです。
子どもの頃、ビールの空き瓶の口に息を吹き込み、「ボー」という音を鳴らして遊んだりしませんでしたか?
瓶の中で、特定の周波数の音が増幅されて共鳴が起こる、あの原理が「ヘルムホルツ共鳴」です。
同じことが水琴窟でも起こっています。
流れ落ちた水が水滴となって、底に溜まった水面に落ちたとき、その水音が「ヘルムホルツ共鳴」によって増幅されて美しく、反響のある音として外に聴こえるのです。
しゃがんで手を洗ったあと、しばらくしてから聴こえてくる水音。
もし慌てて立ち去っていたら、誰もこの美しい水音に気づくことはできませんでした。
忙しい現代だからこそ、たまにはゆったりした気持ちで、自然界の豊かな音を楽しむ余裕を持っていたいものですね。
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